真冬のホラー(着信アリ)
友人とご飯を食べるため,お店に入った。
友人と僕は上着をハンガーにかけた。
携帯はその中に。
3時間くらい経って腹もふくれた頃,
掛けてある友人のジャンパーの中からバイブの音が響いた。
「うぃーんうぃーんうぃーん」
「うぃーんうぃーんうぃーん」
わりと粘る。
メールじゃなく,電話のようです。
「出なくていいの?」
「いいよ」
少しして,「そろそろ行くか」
僕と友人はそれぞれ上着を手に取り,
それぞれがそれぞれの携帯と久しぶりに再会する。
画面を見た友人が一言。
「電話掛けた?」
「掛けてないよ,いつ?」
「10分前くらい」
「掛けてないよ」
携帯は上着に入れっぱなしだったんだから。
僕は自分の発信履歴を確認した。
発信履歴は30件。満タン。
最後の発信は,待ち合わせの為に掛けた,もう4時間近く前の電話だ。
お互いが「ほら」と画面を見せ合った。
友人の携帯の画面には,間違いなく僕の名前と番号が表示されている。
着信時間は確かに10分前。
あの「うぃーん」の時だ。
色々な可能性を考えようにも,2人ともその前後に他の着信はない。メールもない。
お金もない。彼女もいない。今はそれ関係ない。
帰り際,店員のオバチャンに,「ここ,幽霊でますか?」と聞いた。
オバチャンは「ああらやあだあもう,でないでないぃぃぃ」と,
笑いながら,手のひらをパタパタ振って否定。
セオリー通りのオバチャンモーション。
手首の角度,顔ののけぞり具合,共に申し分無し。
あれは何だったんだろう。
勿論オバチャンじゃなく,携帯のほうね。