小田原に移住したよ。

小田原移住日記

唐突な転職で小田原に引っ越した男の顛末

14年前のミリオン出版との思い出

ミリオン出版が無くなるらしい

この記事を読んだ。あのミリオン出版が無くなるらしい。親会社に吸収されるとのこと。

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ミリオン出版。「実話ナックルズ」などのタブー系雑誌や、「URECCO」などのエロ本で有名な出版社だ。

今から14年前、僕は実はミリオン出版に入社するところだった。

就職活動、そして内定辞退へ

僕が就職活動を始めたのは大学3年生だった2003年の10月頃。本当は出版社に入りたかったんだけど、名前の通った出版社の入社試験は僕にとって難しすぎて、箸にも棒にも引っ掛からなかったので、心が折れていろんな業種を受けまくった。その結果、証券、ベンチャー、ITなど、出版と全然関係無い企業からいくつか内定をもらった。

一瞬ホクホクしたが、でもなんだかやっぱり出版社で編集がやりたくなって、7月末で全部の内定を断った。自分の周りでは、6月くらいで就活を終える人々が多かったので少し不安だったけど、幸い実家住まいだし、アルバイトでも死にはしないだろうと考えた。それよりも出版社で編集者として働いた実績を作っといた方が良いだろうと思ったのだ。

そして、8月から出版社の編集職だけに絞った就活を再開。当時、出版系の求人は朝日新聞の求人欄の方がリクナビやらより件数が多かった。そこで朝日新聞の求人欄に掲載されている「出版社」と名の付くものにかたっぱしから書類を送付。その中で出会ったのが「ミリオン出版」だった。一応社名を調べて、成人誌メインなのはかろうじて面接前に気づいたが、朝日新聞に求人出してるくらいだから、「意外と普通な会社」を想像していた。

が、やはり結構変わった会社だった。

ミリオン出版の特殊面接

面接当日。ミリオン出版は市ヶ谷のお堀沿いにあるビルに入っていた。フロアに入ると、いかにも編集部な感じ。並んだ机に、席を区切るパーミッションもなく、グチャグチャに物が置かれた机の上。「おお、これが編集部!」とテンションが上がった。

面接ということで、脇の応接スペースに通される。部屋ではなく、ついたてで仕切っただけのスペースだ。

少し待つと、面接官3名が入場されてきた。2人は普通体型のおじさん。1人は凄く太っていた。3人とも、テレビドラマの雑誌編集者みたいなカジュアルな恰好で、これまでの就活では出会わなかったタイプの大人だった。

簡単な挨拶を済ませると、普通体型のうち一人(以下A)が、目の前の僕のテーブルに本を3冊ポイっと置いた。2冊はエロ本、1冊はなんかアウトロー系の雑誌だったと思う。そして、本を置くなり「入ったらこのどれかを担当してもらうよ」と言った。「はい!分かりました!」と即答した僕に、Aさんは言う。

Aさん:ご家族は理解してくれそう?
僕:大丈夫です!
Aさん:彼女はいるの?
僕:います!
Aさん:彼女は大丈夫?エロ本だけど。
僕:大丈夫です!

特に家族にも彼女にも事前に了解を取った分けではないが、そもそも取る必要が無いと思っていたので、淀みなく答えることができた。今欲しいのは出版社の編集者として働ける内定のみ。

すると徐々に質問の方向性が変化してきた。

Aさん:エロ本は読んだことある?
僕:あります。
Aさん:好きなエロ本はある?
僕:デラべっぴんです!

正直、デラべっぴんが好きなわけでもなく、読んだこともほぼ無かったが、ワードのインパクトですぐ頭に浮かんだのが「デラべっぴん」だったのだ。ありがとう「デラべっぴん」。アゴなしゲンさんがパンチを出すときの掛け声でもある。

就活の面接本も何冊か読んでいたが、好きなエロ本を聞かれる場面が掲載されているものは当時無かったように思う。

そこで、太っちょ(Bさん)がようやく会話に入ってきた。

Bさん:じゃあ好きなAV女優は?
僕:紋舞らんです!

これはデラべっぴんと違い、マジで僕が当時好きだった、松浦亜弥さん似で一世を風靡した女優さん。この名前はスっと出てきた。それを聞いたBさんがなぜか後ろにのけ反って大爆笑。

Bさん:じゃあロリコンだ!!!!
僕:そうです!

これは紋舞らんさんの名誉のために言うが、断じて私はロリコンではない。紋舞らんさんは当時すでに二十歳を越えた大人のレディであった。しかし、ここで「ロリコンではありません!」と必死に否定したところで、僕の話術では面白くできない。乗っかっといた方が賢明、という判断をしたのだ。内定欲しさに僕は魂を売った。

上記のようなやり取りを経て、必要以上にガッチリとした手ごたえと共に面接が終了した。

結局面接はこの1回だけで、無事内定を獲得。当然の結果と言える。

面接中の気になる声

前述の通り、面接は編集部の一角をついたてで仕切ったスペースで行われていたため、基本的に編集部で話している声は丸聞こえであった。誰かが電話を取り、受話器の向こうの相手と話出した。

「あ、お前何ヶ月も連絡取れなかったじゃん。何してたの?」

相手は社員か編プロか知らないが、とにかく数ヶ月連絡が取れなかった人と話しているらしい。そして次の言葉が、

「え!性病!?大丈夫?」

男子大学生がジョークで言う感じではなく、リアルガチの病を心配するトーンであった。面接中だったので、その後ずっと聞いていることはできなかったが、声がめちゃくちゃデカかったのと、パンチのあるワードだったので非常に印象に残っている。

もう一つの内定

目的である「出版社の編集職の内定」をゲットしたので、心はホクホク。就活は終了してもよかったが、もう1社選考が進んでいる企業があった。それはミリオン出版と同じ市ヶ谷にある某教育系出版社「Z社」だった。

次最終面接だし、ミリオン出版の内定受諾は少し待ってもらって、Z社も受けとくことにした。Z社については、ジャンルこそ興味はあまりなかったものの、歴史ある出版社で本作りが学べるというところは魅力的に感じていた。

入社試験が始まったのはZ社が早かったが、ミリオン出版と違って1次、2次、最終と3回も面接があったので、途中で逆転していた。

Z社の最終面接当日、課題の作文を書いたあと、役員が並んだ部屋に順番に通される。面接は圧迫もなく、なごやかな感じだった。僕は最早落ちたらミリオン出版に行くだけという気持ちだったので、心の余裕もあったと思う。

役員:あなたはどの教科の本が作りたいですか?
私:国語が得意なので、国語の本が作りたいです!
役員:そうか、残念だけど、うちは国語の本は出していないんだよ。

役員:国語が得意なんですか?
私:はい!
役員:でも、SPIの結果は国語より算数の方が良いね。

こんな調子だったので、手ごたえはスッカスカ。全員の面接終わるまで待合室で待たされるが、待合室には15人くらいいた。教育系の出版社だけあって、他の受験者はみんな賢そうだ。「こりゃダメだな」と感じる。

全員の面接が終わり、総務の人が結果報告には1週間程度かかること最後に「この中に他に内定をもらっていて、早く結果が知りたい方はいますか?」と言った。ミリオン出版を待たせている僕は、スッと手を挙げ、自分の名前を告げた。他に誰も手を挙げる者はいなかった。

そして、意外なことにZ社から内定が出た。何故だ。最後に「結果を早くほしい」と言ったことで、レア感を出すことに成功したのだろうか。のちに判明するが、あの待合室にいた中で受かったのは僕だけだった。

究極の2択~エロと教育のはざまで~

思いがけず出版社の内定を2社保有した僕は、真剣に悩んだ。どっちも良すぎて。エロ本か、教科書か。ジャンルの振り幅がデカすぎて比較できない。「どっちでもいいから行った方で頑張ろう」の心境であった。それにしても決めなくてはならない。

参考までに当時サッカー仲間でエロ本編集者として活躍されていた人にメールで質問。「エロ本の編集ってどんな仕事ですか?」と聞くと、「エロ本は、自分でカメラ持ってナンパして撮影とかあるから結構大変だと思うけど、実力は付くと思うよ」とのこと。「付くのはナンパの実力と編集者の実力のどちらですか?」と追加質問したところであまり意味が無さそうなので、「ありがとうございます」と伝えた。とにかく貴重な情報を得た。道行く女性をナンパし、初対面にも関わらず素っ裸の写真を撮影させて頂く。これまでの人生には無いことだが、それだけに中々やりがいはありそうだ。(その人ものちに実際編集者として確かな実績を築いている)

究極の2択で迷っている最中。当時付き合ってた彼女と一緒にコンビニへ行ったとき、「ああ、これだ、この雑誌」と言って「URECCO GAL(ミリオン出版刊)」を手に取った。「ほんとにこれ?」と言いながらも、「やりたいならいいんじゃない?」と言ってくれた。とても感謝している。(その後ベコベコに振られて長期引きずることになるのは別の話)

決断

悩んだ挙句、最終的に僕は「よし、退職金があるほうにしよう」という、「この期に及んでそれ?」という実に堅実な決断を下し、Z社に入社することにした。その決断が僕にとって正解だったかどうかが分かるののは最短でも死ぬときだと思うけど、敢えて途中経過として言えば、「良い決断だったなあ」と思っている。それは、Z社がとても良い会社だったこともあるし、Z社も、そのあと転職した会社でも良い出会いがあったから、というのが理由だ。

なんてことを思いながらも「あの時ミリオン出版に行ってたらどうなってたんだろう」と2年に1回くらい思うことがある。もしかしたら腕利きナンパ師として巷にあふれた黒ギャルどものショートパンツをちぎっては投げ、ちぎっては投げしていたかもしれない。それはそれで最高にイケているなあと思う。

そんなわけで、僕にとって少なからず思い出があり、恩もあるミリオン出版。あんまり家で読むことは無いが、出張の新幹線や飛行機では「アサヒ芸能」や「裏モノJAPAN」などと合わせて、「実話ナックルズ」はよく読む。

会社が無くなってしまうのは残念だ。ただ、出してる本が無くなるわけではないとのことなので、あんまり変わらないのではとも思う。今後も出張の時には買って応援したいと思う。