小田原に移住したよ。

小田原移住日記

唐突な転職で小田原に引っ越した男の顛末

新谷消失事件

高校の時,サッカー部の1つ上の先輩に,新谷先輩という人がいた。

ひょろりと細長く,顔色が悪い。

肌は雪のように白く。

ここまでの情報だと,美少年の可能性がある。

でも,顔はラーメン大好き小池さんに凄く似ていたのだ。

天然パーマだし。

彼は部の中でもかなり異質な存在で,

まず,サッカーは正直言って全然うまくなかった。

実力主義をうたいつつも,微妙に年功序列があったウチの部にあって,

Aチームで出場したのは引退試合だけだったんじゃないだろか。

言葉で形容し難い変な動きでするディフェンスは,

視覚的にちょっとドギマギするものの,

カカシのように抜くことが出来た。

注目すべきは彼のファッション。

少年ジャンプの裏に載ってる怪しげな広告の,

あの銀色のサウナスーツみたいなのを常時身につけてた。

減量ボクサーがよく着てる,アルミホイルみたいなアレ。

それ以上どこの肉を落とすの?ってくらい痩せているのに,

ぎんぎらぎんのサウナスーツ。

どこで購入したのかは結局聞けなかった。

ただ,サッカー用じゃないのは確か。

彼はサッカーに,いや全てのスポーツに向いてなかったのは明らかだった。

上級生の間ではいつもネタとして扱われ,笑いの種になっていた。

しかし,僕ら下級生の間では,やはり先輩ということもあって,

しっかり敬語を使い,勿論裏ではネタになっていたものの,

表面上は忠実な後輩だった。

そんな,ある冬の日,数年に一度という大雪が降った。

辺り一面銀世界。

外のグラウンドを使う部活は軒並み練習を中止にする中,

我らがサッカー部は無駄に雪かきをすることになった。

無駄っていうか逆に迷惑。

だって,濡れてる地面を踏みあらしたら,乾いたときに凸凹になっちゃう。

そんなことはお構いなしに,

雪の積もったグラウンドという異常事態を体感したかった。

そんなこんなでサッカー部のメンバーがぼつぼつグラウンドに出てきた。

他の部はいなかったので,雪は荒らされてない。

僕らは可哀想な子供の様に雪を存分に楽しんだ。

上級生も集まり,そろそろ全員集合。

雪かきもやらないと,脳味噌が筋肉に変化して更に脂肪になっちゃった

体育科のバカ教師に怒られる。

そんなとき「あれ,新谷がいない」と先輩。

確かに,集まった中にサウナスーツの姿は無い。

「でも,今日あいつ学校来てたけどなあ。」と別の先輩が。

その時,グラウンドの入り口を指さした。

「あ,新谷先輩だ。」

「え,どこどこ?」

みんなが指の示す先を見るけど,何も無い。

「いないじゃん。」

僕も見たけど,一面の雪があるだけだ。

僕の学校はグラウンドがとても広く,

入り口の方からサッカー部の使用場所まで結構離れている。

ちなみに,入り口は野球部の場所なので,まだ踏み荒らされていなかった。

「あそこあそこ」と言いながら,友達は既にちょっと笑っている。

何がおかしいのかとよく見てみると,いた!

あれか!

よーく見ると,そこには銀色のサウナスーツに身を包んだ新谷先輩が。

完全に雪景色と同化してる。

最早,それは擬態のレベルに達していた。

僕らは我慢できずに馬鹿笑い。

わざとやってんのか?ってくらい,完全に消えていた。

顔と手の先スーツで隠してないから見える。

サウナに保護されていないパーツだけが動いている。

ジョイメカファイトかよ。

僕らは笑いすぎで窒息しそうになって,喘息みたいな呼吸になった。

そんな僕らを見ても特にリアクションは無く,

いつも通り無言の新谷先輩。

これが世に言う「新谷消失事件」です。

かなり愛すべきキャラクターした。

今どうなってるのかなあ。