小田原に移住したよ。

小田原移住日記

唐突な転職で小田原に引っ越した男の顛末

ハートフル岡山(3)

(二日目のつづき)

田舎道をひたすら歩き続ける。

途中,「この道でいいのか?」と不安になったあたりで,小さな案内板が見える

といったアンバイ。

畑の脇を通り過ぎていくと,道は木の生い茂った山へ入っていく。

途中数台の車が僕を追い越していったほかは静かで,

歩いてる人なんかいない。

足を止めると,たまに鳥の鳴き声が聞こえるほかは,無音。

風で草木が揺れる音もしない瞬間がある。

静かだ。

緑と紺のジャージにジーパン,手荷物無しで山道をうろつく僕は,

ともすれば自殺志願者に見えなくもないなと思った。

僕が車に乗っていて,そんなのを見かけたらそう思うだろう。

早足で歩いたからか,20分と少しで「羅生門入り口」までついた。

途中,分かれ道がいくつかあったけど,間違っていなかったようだ。

マップルには,「入り口に車を停めて,徒歩7分」とあった。

駐車場には日産車が1台とまってる。先客か?

細い山道を下っていく。

道が右に大きく曲がった。

すると,あった!

これが羅生門

高さは40メートルに達する巨大な岩の門だ。

元々は鍾乳洞だったもので,周りが何かで崩れ落ち,今の形になったとのこと。

羅生門と向かい合った斜面の中腹に,展望台というにはあまりに高さが足りない

台があった。

それにのって,そこから全体を見回す。

見れば見るほど立派だ。

元の鍾乳洞は,さぞ高さのある立派なものだったのだろう。

門をくぐってみたいと思い,斜面を更に降りてみる。

すると,下から一匹の柴犬が姿を見せた。

野犬かと思って一瞬身を固くしたけど,首輪をしている。

飼い犬のよう。

入り口の車の持ち主か。

犬は僕を見てワンと吠えて近寄ってきた。

でも吠えたのは一度だけで,後は頭を足にすり寄せてきたので,頭と尻を撫でてやった。

「ジョン~吠えちゃダメよ~」といいながら,下から上がってきたのは初老の父婦。

「ごめんねー」と謝るオバチャンに,「大丈夫ですよ」といい,

僕は下に降りていく。

門の下に辿り着くと,雨は降っていないのに,湿気がすごい。

上からはぽたぽた水もおちてくる。

なるほど「鍾乳洞だった」という感じだ。

脇にはコケが群生。

綺麗に生えそろった,緑色のはっきりした良いコケだ。

コケ好きの母方の祖父が見たらさぞ喜ぶだろう。

せめて写真だけでもと,携帯のカメラにおさめた。

門をくぐると奥にもう一つの洞窟が。

こっちはより湿気があり,上から落ちてくる水も,

ポタポタの回数が多い。

こっちは門という造りじゃなく,

前から入って,左右に吹き抜けの穴が空いている。

空気の通り道は,門が「I」なら,「T」だ。

片側は山の上へ抜ける穴,もう片側は山の谷側へ空いた穴だ。

足元の石は,恐らくいつか上から崩落したもので,

ごつごつ尖っているのが多かった。

持って帰りたかったけど,マナー違反なので我慢した。

良識ある大人。

しばらく1人で歩き回り,そろそろ戻らないといけない時間。

ちょっとのんびりしてたから,少し走らないと間に合わないか?

とりあえず来た道を戻って,入り口まで行く。

するとさっきあった夫婦とジョンが。

「どうも」と挨拶。

どうやら入り口の日産車は,この人達のものらしい。

バス停まで乗っけてくんないかな~。と思ったけど,

逆方面へ行く道もあるから同じ方向とは限らないので,声にはせず。

また来た山道をスタコラ戻っていく。

孤独。

暫く歩くと,後ろからエンジン音が。

車か~いいな~。と思ってると追い越された。

さっきの夫婦の車だ。

するとちょっと前で停車した。

「どこまで行くの?のってかない?」とのこと。

正に神。

断る理由も一切無いので,お言葉に甘えることにした。

後部座席にはジョンが。

バス停まで行くと,今度は「①どっち方面にいくの?②電車の切符は買ったの?」と聞かれたので,

「① 岡山駅です。②まだです」と答えた。

すると,その人達は倉敷に帰るから,倉敷まで送ってくれると言ってくれた。

ありがたし。

そのご厚意に甘え,倉敷まで車で送ってもらった。

こんな怪しげな格好をした変な若造を車に乗せてくれるなんて,やさしすぎる。

きっかけはジョン,いや,ジョンさんなんで,

ご機嫌を伺うべく,尻を揉みまくった。

ジョンさんにはジョンさんの乗車スタイルがある。

それは「後部座席に後ろ足,運転席と助手席の肘置きに前足で立つ」というもの。

そうすると,後部座席の僕に対し,尻が完全に無防備な状態になるのだ。

犬マッサージという競技があれば,間違いなく上位に食い込むだろう僕の手腕を

遺憾なく発揮し,

ジョンさんの疲労回復をはかった。

そんな僕の下僕心を察してか,たまにジョンさんが屁をこく。

それが臭い臭い。マジで臭い。

こっち向いた肛門にキビ団子でフタしてやろうかというくらい臭かったけど,

縦社会なので我慢した。

世間話,とはいっても世間が違うので,東京と岡山の話で盛り上がった。

ご夫婦には3人の子どもがおり,皆さんご自慢な様子。

一番下が僕と同い年だそうな。

「泊まるところはあるの?」の質問には驚いて、「あります。ホテル予約してるんで」と。

あそこで「ないっす」と言ったら、もしかして泊めてくれたのかな・・・

暫く車を走らせると,ご主人が車をパーキングに入れた。

何かなと思ったら,目の前に滝が。

「絹掛の滝」という滝らしい。

水量はないものの,岩肌を薄ーく流れる水が綺麗だ。

滝壺の下で待ちかまえるのは,鯉の石像。

大きいのが1体,上に向かって顔を上げている。

ちょっと離れた隅に,もう1体小さいのがいた。

滝の脇には不動明王を祭ったほこらが。

中にはお線香の煙が立ちこめており,ジョンさんがむせていた。

また車に乗ってしばらく行くと、道ばたで野菜の直売をやっていた。

僕はデコポンを一つおごってもらった。

デコポンは甘くて、種も1個に対して2粒しか入っておらず、最高だった。

惜しむらくは、その種が最後の2クチに仕込まれていた為、

おもくそ噛み砕いてしまったこと。

ちょっと飲み込んじゃったよ。

ちなみに、僕がデコポンを食べてても、ジョンさんは見向きもしなかった。

偉い。

うちの犬は食えようが食えまいが、僕が口に何か入れようとすると、必ず自分もほしがる。

キムチだろうが納豆だろうが関係ない。

ジョンさんを見習ってほしい。

その後、しばらくドライブをしたあと、また寄り道。

高梁の武家屋敷の町並みと、頼久寺を見た。

頼久寺の入場料を払おうとしたら、おじさんが「いいから」と払ってくれた。

何から何まで。感謝の気持ちで一杯です。

頼久寺の見所は、きれいに整備された庭だ。

庭には細かい砂利が敷き詰められて、その上を軽くクシで円を描くようになでた感じになってる。

左手には打ち寄せる波を表す刈り込んだ椿、正面には鶴を表す岩、

その奥には亀を表す岩が。

正直、鶴や亀に似ているというわけではないけど、

そのへんは星座と同じ。

いいもんはいい。

何がいいって手入れがいい。

枝はきれいに刈り込まれてるし、砂利もまんべんなく敷き詰められている。

じゃりのあの模様は、人間がやっているのだろうか?

頼久寺を出て、日本の道100選のひとつである本町楢井線・下町薬師院線まで歩いた。

細い川の両脇に、桜が短い間隔で植え込まれた道。

長さはほんの100M弱程度。

桜はまだ下の方がちらほら程度。

満開だったらさぞきれいだろうなと思いながら、後にした。

その後は倉敷まで一直線。

話の種に僕の名刺をお渡ししたため、お二人は僕の名前をしってるんだけど、

僕の方はお二人のお名前も知らない。

ちょっとお礼もしたい。

倉敷はもうすぐだ。勇気を出して言ってみた。

「すみません。お礼をしたいので、住所とお名前教えていただけませんか?」

と言うと、「そんなんいーよー。東京に来た人がいたら、親切にしてあげて。

また岡山に遊びにきてね」と言われた。

なんてこった。

ぐっときた。

旅先で全く知らない人からこんなに親切にされた嬉しい気持ちと、

やはりもう二度と会うことはないだろうという寂しい気持ちで。

まあそこは男。

倉敷駅、見慣れたチボリ公園の前でまたお礼を言って、別れた。

最後にジョンさんの全身をなで回しておいた。

ありがとう倉敷の親切な老夫婦と犬よ。プライスレス。

無事岡山に到着し、夜の日程をこなし、就寝。

(三日目)

月曜日。

午前中も予定があり、それは無事終了。

午後ちょっと時間があったので、岡山城を軽く冷やかし、

後楽園を見物した。

ちょうど梅が終わり、桜が咲く直前ということで、

全体的に物悲しい感じ。

でも、僕は桜がモサモサ咲いてるよりも、こんな感じが好きだ。

小金井公園もこんなかんじで落ち着く感じにならないか。

あそこは汚いからなあ。

あと夜は治安が悪いし。

がっちり柵でかこって、入園料をとれば少しは良くなるんじゃ。

そしたら僕は行くぞ。

帰りの飛行機は結構揺れてビビった。

「うぉ」っと声が出て、となりのリーマンを驚かせた。

アサ芸のいかがわしいページを読んでたら、

後ろからスチュワーデスが現れてドギマギした。

家に帰ったら熱が38度になっていた。

終了。