蚊
家に帰ってテレビを見る。
無為な時間が過ぎてゆく。
しばらくすると,目の前を一匹の蚊が横切った。
「ぬおっ」と小さく叫び,すぐさま両手で潰そうとする。
ぱんっ
直ぐ手のひらを見る。
しくじった。
見失った。
同時に膝が痒くなる。
ぼりぼり。
やられた。
この前実家から持ってきた蚊取りを付ける。
五分ほどして。
テレビの枠にくっついて,羽を休める黒い影が。
あれだ。
ばんっと叩く。
直撃はしなかった。
それでも,音に驚いたのか,腹が一杯だったのか,下に落ちた。
明らかに腹がふくれている。
動かないのを確認して,
ティッシュで取る。
すり潰すと,血が出てきた。
一滴は入っていた。
蚊は僕の体から血を奪い,
奪われた僕はそれを奪い返す。
しかし,流れた血を元に戻す事は出来ず。
残ったのは痒みだけ。
まさかボウフラは僕を恨まないだろうな。
なるほど,良く出来た話だなと思いつつ,
足をぼりぼり掻きながら寝た。